海上特殊無線技士とは?船舶免許と一緒に取るべき理由

海上特殊無線技士と国際VHFの解説

沖でエンジンが止まったとき、あなたは誰にどうやって助けを求めますか。——スマートフォンで118番、と考えた方は多いでしょう。携帯電話が使える状況では118番も重要な通報手段です。ただ、携帯電話の電波は陸から離れるほど弱くなり、圏外になる海域は珍しくありません。バッテリーが切れることもあります。海には海の通信手段があり、それが国際VHFです。そしてこの無線機を使うには、船舶免許とはまったく別の資格——海上特殊無線技士が必要になります。この記事では、この資格の中身と、プレジャーボートのオーナーが検討する価値がある理由を整理します。

国際VHFとは何か——世界共通の海の通信網

国際VHF(船舶共通通信システム)は、150MHz帯を使用し、船舶において遭難・安全通信・港務通信、電気通信業務、水先業務等に使う無線通信システムです。全世界的に使われているため「国際VHF」と呼ばれています(日本マリン無線協会/総務省「国際VHF利用ガイド」より)。

総務省は、船舶のより安全な航行を実現するため、小型船舶等に任意で設置することができる安価な国際VHF機器の普及を図るべく、平成21年に「船舶共通通信システム」として制度の整備を行いました。つまり、大型船だけのものだった無線が、プレジャーボートにも手が届くものになった、ということです。

携帯電話と何が違うのか

もっとも大きな違いは、「相手を特定せずに呼びかけられる」ことです。

携帯電話は、番号を知っている相手にしかかけられません。しかし国際VHFなら、電波が届く範囲で同じチャンネルを聴守している船舶局や海岸局に呼びかけることができます。近くにいる船、海上保安庁の海岸局、マリーナ——相手の番号を知らなくても、同じチャンネルを聴いている相手に情報を伝えられます。

海難の現場でもっとも頼りになるのは、多くの場合、いちばん近くにいる船です。その船に直接呼びかけられる手段があるかどうかは、決定的な違いになります。

操作に必要な資格——第三級と第二級の違い

国際VHFを使うには、無線従事者資格と無線局免許の2つが必要です。まずは資格のほうから見ていきます。

使用する機器の機能・出力ごとに、必要な資格が定められています。

使用する機器必要な無線従事者資格
携帯型5W(DSC機能なし)第三級海上特殊無線技士(海特3)以上
携帯型5W(DSC機能付き)第二級海上特殊無線技士(海特2)以上
据置型25W第二級海上特殊無線技士(海特2)以上

ここで鍵になるのがDSCです。

DSCとは——ボタンひとつで遭難を知らせる機能

DSCはデジタル選択呼出装置(Digital Selective Calling)の略で、簡単な操作でグループ呼出や遭難信号の発信ができる機能です。

DSC機能のついた無線機は、緊急時にディストレスボタンを押すことで、付近の船舶局に遭難信号を送信できます。GPS等から位置情報を取得できる状態であれば、遭難している旨と自船の位置情報を送信できます。

これは非常に大きな意味を持ちます。海難の現場では、パニックになって正確に状況を説明できないこともあります。負傷して声が出せないかもしれません。そのときに、ボタンひとつで遭難信号を送信できる——この差は大きいと言えます。

そして、このDSC機能を使うには第二級海上特殊無線技士以上の資格が必要です。DSC機能や据置型25Wまで使いたい方には、第二級が有力な選択肢です。

※ どちらを取るか迷ったら、第二級をおすすめします。据置型25Wが使え、DSC機能も操作できるため、装備の選択肢が広がります。なお、すでに第三級(海特3)の資格をお持ちの場合は、より短時間の講習で第二級(海特2)を取得することが可能とされています。

資格の取り方

無線従事者資格は、国家試験、またはマリーナ等が主催して開催する講習会で取得することができます。国家試験は公益財団法人日本無線協会が実施しています。

船舶免許の「国家試験を受験するコース」と「教習所コース」の関係に似ています。まとまった時間で確実に取りたい方は講習会、自分のペースで学びたい方は国家試験、という選び方になるでしょう。

費用や日程は実施団体によって異なります。詳細は日本無線協会または講習会の主催者にご確認ください。

もうひとつ必要なもの——無線局免許(特定船舶局)

ここを見落とす方が少なくありません。資格を取っただけでは、まだ電波を出せません。無線機を船に載せて運用するには、無線局免許(特定船舶局)が必要です。

押さえておくべき点は次のとおりです。

  • 有効期間は5年間
  • 無線局の免許は船舶1隻ごとに1つ——複数の船舶で共用することはできません
  • 免許申請用紙は総務省のホームページからダウンロードできるほか、国際VHFの機器に添付されています。電子申請システムも利用できます
  • 技術基準適合証明(技適マーク)のない無線設備は使用できません——輸入品等を購入する際は特に注意が必要です

無線機を買うときの注意

無線機は、全国の主要無線機器販売店、船舶用機器販売店のほか、インターネット通信販売でも購入できます。購入の際は、その機器が技術基準適合証明を受けていることを示す「技適マーク」を必ず確認してください。

ライフジャケットの桜マークと同じ考え方です。見た目が同じでも、認証を受けていない製品は使えません。

知っておくべき義務とコスト

無線局を持つと、いくつかの継続的な義務が発生します。

① 電波利用料

無線局の免許を持つ方は、無線局の規模に応じた電波利用料を負担します。1年ごとに納付書が郵送され、金融機関やコンビニエンスストア等で支払います。口座振替や前納も利用できます。

② 定期検査

無線局の運用状況や無線設備が法令の基準に合致しているかを定期的に確認するため、定期検査制度があります。使用する無線設備の種類等により検査の周期が異なります。

設備検査周期の一例
据置型の国際VHFのみ5年ごと(※)
携帯型(5W以下)の国際VHFのみ定期検査は不要(※)

※ただし、遭難自動通報装置(EPIRB等)が強制の場合は2年ごととされています。検査周期の詳細は総合通信局等へお問い合わせください。定期検査が必要な年度には総合通信局等から通知書が送付されます。

③ 再免許の手続き

免許の有効期間は5年間です。継続して使用する場合は、有効期間満了の6か月前から3か月前までの間に再免許の申請を行う必要があります。有効期間切れには十分ご注意ください。

船舶免許の更新、船舶検査、そして無線局の再免許——船を持つと管理すべき期限が増えていきます。カレンダーやスマートフォンのリマインダーに登録しておくことをおすすめします。

運用のルール——覚えておきたい基本

国際VHFは、まず連絡設定用チャンネルで相手船を呼び出し、その後通話用チャンネルに切り換えて通話を行います。

ch用途
16遭難・緊急・安全呼出、一般呼出・応答用。このチャンネルでは一般の通話はできません(連絡設定後、他チャンネルに切り換えて用件を話す)
77小型船舶同士・所属海岸局との呼出・応答用。小型船舶同士はch16の輻輳を避けるため、こちらでの連絡設定が推奨されています
6, 8, 10すべての船舶(主に航行用)の通話
13すべての船舶(航行安全通信用)※海上保安庁の海岸局も含む
69, 72, 73小型船舶間の通話
9海上保安庁の海岸局との通話 ※船舶等も含む
11, 12, 14海上保安庁・ポートラジオ等との通話

遭難・緊急時の運用

  • ch16にセットし、付近の船舶局や海岸局に救助を求めます
  • DSC機能のついた無線機は、ディストレスボタンを押すと付近の船舶局に遭難信号を送信できます。GPS等から位置情報を取得できる状態であれば、遭難している旨と自船の位置情報を送信できます
  • 誤発射した場合は、最寄りの海上保安庁へ連絡してください

日常の運用で守ること

  • 航行中はch16とch77を聴守する——特にch16は、遭難・緊急の連絡や海上保安庁からの情報など重要な通信が入ることがあります
  • 簡潔・明瞭な通話を心がける——航行の安全にかかわる重要な通信を行う無線です
  • 海上での航行時にのみ使用できます。河川、湖沼や陸上での使用は禁止されています
  • 船舶ごとに無線局免許が必要——同じ機器を複数の船舶で共用することはできません

罰則——電波は「みんなのもの」だから

無線には厳しい罰則が定められています。電波は有限で共有の資源であり、遭難通信を妨げることは人命に直結するためです。

  • 無線局免許を受けずに国際VHFを運用した場合:1年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金
  • 遭難通信を妨害したとき:1年以上の有期拘禁刑
  • 虚偽の遭難通信を行った場合:3か月以上10年以下の拘禁刑
  • 定期検査を拒んだり忌避した場合:6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金

※ 刑名の表記について。2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されています。総務省等の公表資料には改正前の刑名(懲役)で記載されているものもありますが、本記事では現行の刑名で表記しています。罰則の詳細および最新の内容については、電波法の条文および総合通信局等にご確認ください。

船舶免許との組み合わせで、安全性はどう変わるか

ここまで読んで、「手続きが多いな」と感じられたかもしれません。資格を取り、無線局免許を申請し、電波利用料を払い、必要に応じて定期検査を受け、5年ごとに再免許手続きを行い——確かに手間はあります(定期検査の要否は、無線設備の種類によって異なります)。

それでも、プレジャーボートに国際VHFを装備するメリットは何か。理由のひとつは、海上で周囲との通信手段を確保できることです。

実際にありうる場面

  • エンジントラブルで漂流——携帯が圏外でも、周囲の船に呼びかけられる
  • 濃霧で視界が悪い——周囲の船と相互に位置を知らせ合える
  • 急な天候悪化——ch16で海上保安庁からの情報を受信できる
  • 同乗者の急病——ディストレスボタンで遭難信号を送信できる(GPS等から位置情報を取得できる状態なら自船の位置情報も)
  • 他船の遭難に遭遇——救助する側に回ることもできる

最後の点は、意外と見落とされます。無線を持っているということは、助けを呼べるだけでなく、助けを求める声を受け取れるということでもあります。海の安全は、そこにいる船同士が互いに支え合うことで成り立っています。

よくある質問(FAQ)

Q. 船舶免許を持っていれば無線も使えますか?
A. 使えません。国際VHFを操作するには、船舶免許とは別に無線従事者資格(海上特殊無線技士等)が必要です。さらに、無線機を船に載せて運用するには無線局免許(特定船舶局)も必要になります。

Q. 第三級と第二級、どちらを取るべきですか?
A. 装備の選択肢を広く取りたいなら第二級です。据置型25Wが使え、DSC機能(緊急時のディストレスボタン)も操作できます。安全性を重視するなら第二級が有力な選択肢です。なお、すでに第三級をお持ちの方は、より短時間の講習で第二級を取得できるとされています。

Q. 携帯型と据置型、どちらがいいですか?
A. 携帯型(5W以下)は定期検査が不要とされる一方、出力が小さいため通信距離は限られます。据置型(25W)は通信距離が長い一方、5年ごとの定期検査があります(設備構成により異なります)。船の大きさや航行範囲に応じて選ぶことになります。詳細は販売店や総合通信局等にご相談ください。

Q. 湖や川では使えますか?
A. 使えません。国際VHFは海上での航行時にのみ使用でき、河川、湖沼や陸上での使用は禁止されています。

Q. 中古艇を買ったら無線機が付いていました。そのまま使えますか?
A. そのままでは使えません。無線局免許は船舶1隻ごとのもので、所有者が変わった場合の手続きが必要です。また、技適マークの有無、機器の状態、免許の有効期間の確認も必要になります。総合通信局等にご相談ください。

Q. 誤ってディストレスボタンを押してしまったら?
A. 最寄りの海上保安庁へ連絡してください。放置すると救助活動が動き出す可能性があります。なお、虚偽の遭難通信には重い罰則が定められています。

Q. 118番があれば無線は不要ではないですか?
A. 118番は海の緊急通報として非常に重要ですが、携帯電話の電波が届かない海域があること、バッテリー切れの可能性があること、周囲の船に直接呼びかけられないことなど、限界もあります。両方を備えておくのが理想的です。

掛け合わせで広がる、海の楽しみ方

船舶免許、特定操縦免許、海上特殊無線技士——マリンの世界には、組み合わせることで可能性が広がる資格がいくつもあります。将来、遊漁船や小型旅客船など業務利用を考える方にとって、船舶免許・特定操縦免許・無線資格を目的に応じて組み合わせることは、安全運航の知識や対応力を広げる一つの方法です。

ただ、いきなりすべてを目指す必要はありません。まずは小型船舶操縦士免許から。そこから、自分の楽しみ方や目標に合わせて足していけばいいのです。

そして、無線の勉強をすると、海の見え方が少し変わります。ch16を聴守していると、周囲でどんな通信が行われているかがわかる。海上保安庁からの情報が入ってくる。自分が広い海のネットワークの一部であることが、実感として理解できるようになります。

ALPHA MARINEのコースについて

ALPHA MARINEは国土交通省登録の小型船舶教習所(国家試験免除コース)です。学科・実技から修了審査まで教習所内で完結します。

  • 1級小型船舶操縦士免許:最短5日間。航行区域が広く、外洋を視野に入れる方に。無線との組み合わせで安全性が高まります
  • 2級小型船舶操縦士免許:最短3日間。海岸から5海里以内の水域および平水区域を航行できます
  • 特殊小型船舶操縦士免許:最短1.5日間・55,000円(税込)。水上バイク専用です

講習では、緊急時の対応や通報の手順についても指導します。「無線も取ってみたい」というご相談も歓迎です。2級なら最短3日で取得できますので、お仕事を続けながらでも受講いただけます。

まとめ:海上特殊無線技士 要点整理

  • 国際VHFは150MHz帯を使う世界共通の海上通信システム——平成21年に「船舶共通通信システム」として制度整備
  • 必要なのは無線従事者資格+無線局免許(特定船舶局)の2つ
  • 携帯型5W(DSCなし)は第三級以上、携帯型5W(DSC付き)・据置型25Wは第二級以上
  • DSCは遭難信号を送信でき、GPS等から位置情報を取得できる状態なら自船の位置情報も送信できる——第二級以上が必要
  • 無線局免許は船舶1隻ごと・有効期間5年——再免許は満了6か月前〜3か月前に申請
  • 技適マークのない機器は使用できない
  • ch16とch77を聴守する——ch16では一般の通話はできない
  • 河川・湖沼・陸上での使用は禁止
  • 無免許運用には罰則あり——1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

まずは船舶免許から。その先に、無線という選択肢があります。大阪で船舶免許をお考えなら、ALPHA MARINEへお気軽にご相談ください。

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監修:ALPHA MARINE(国土交通省登録 小型船舶免許教習所/大阪校)

【法令確認について】本記事の国際VHF・無線従事者資格・無線局免許に関する情報は、2026年8月17日に日本マリン無線協会の公式サイト(出典:総務省「国際VHF利用ガイド」)および「電波法(昭和25年法律第131号)」を確認したものです。罰則の刑名については、2025年6月1日施行の改正刑法により懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化されたことをふまえて表記しています。無線従事者資格の試験日程・費用は公益財団法人日本無線協会または講習会の主催者に、無線局免許の申請手続き・電波利用料・定期検査の周期については総務省の各総合通信局等に、それぞれ直接ご確認ください。制度・料金は改正される場合があります。

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