中古のボートを見に行って、いい艇に出会った。値段も折り合った。——さて、ここから何をすればいいのでしょうか。車なら「名義変更」という言葉がすぐ浮かびますが、船の場合、その手続きが何と呼ばれ、どこに、いくら払って行うものなのか、はっきり答えられる方は多くありません。実は船にも自動車の登録制度によく似た仕組みがあり、これを知らないまま売買を進めると、所有権をめぐるトラブルに巻き込まれることさえあります。この記事では、小型船舶の登録制度について、制度の成り立ちから4種類の登録の使い分け、手数料、そして中古艇購入時に必ず確認すべきポイントまでを、順番に解きほぐしていきます。
小型船舶登録制度とは——「船の所有権」を公に証明する仕組み
小型船舶の登録制度は、「小型船舶の登録等に関する法律」(平成13年法律第102号、略称:小型船舶登録法)に基づく制度です。この法律は平成13年7月4日に公布され、平成14年4月1日から運用が開始されました。
制度の目的は、小型船舶の所有権を公証し、財産としての保護を図ることにあります。船は高額な動産です。誰のものかが曖昧なままだと、二重売買や盗難、放置艇の責任所在といった問題が起きやすくなります。登録制度は、それを防ぐための土台です。
登録には2つの法的な意味がある
小型船舶登録法では、登録に次の2つの効果が定められています。
- 「登録を受けなければ航行の用に供してはならない」——登録は航行の前提条件です
- 「登録を受けなければ所有権について第三者に対抗することができない」——登録していないと、自分がその船の所有者であることを第三者に主張できません
後者は特に重要です。売買契約書を交わしただけでは、法的には不十分な場合があります。「お金は払った、船も受け取った、でも登録は前の所有者のまま」という状態は、法的リスクを抱えたままだということです。
※ 一部の小型船舶は、登録制度の対象外です。
小型船舶であれば必ず登録が必要、というわけではありません。漁船登録を受けている船をはじめ、この登録制度の対象とならないものがあります。ご自身の船が登録の対象になるかどうかは、日本小型船舶検査機構(JCI)の「登録対象船舶」の案内でご確認ください。判断に迷う場合は、最寄りのJCI支部にお問い合わせいただくのが確実です。
登録を行うのはJCI
この小型船舶の登録は、船舶検査と同じく日本小型船舶検査機構(JCI)が国の代行機関として実施しています。つまり、船検も登録も窓口はJCIです。両方の手続きを同時に行うこともでき、その場合はそれぞれの手数料を合算して振り込みます。
登録の種類は4つ——使い分けを押さえる
小型船舶の登録には、次の4種類があります。
| 種類 | どんなときに行うか |
|---|---|
| 新規登録 | 登録を受けていない小型船舶が最初に行う登録。新造船・輸入船が対象。漁船登録を抹消して一般船舶に転用する際の登録も新規登録にあたる |
| 移転登録 | すでに登録されている小型船舶の所有者が、売買や相続により変わったときに行う所有権移転の登録。いわゆる「名義変更」 |
| 変更登録 | 所有者の住所・氏名の変更(所有者そのものの変更ではない)、船籍港の変更、改造による総トン数などの変更を行う登録 |
| 抹消登録 | 沈没や解撤(解体)により船が存在しなくなった場合、海外に売船された場合、漁船に転用され漁船登録を受けた場合などに行う登録 |
混同しやすいのが移転登録と変更登録です。「船の持ち主が別の人になる」のが移転登録、「持ち主は同じだが、その人の情報や船の情報が変わる」のが変更登録、と覚えると整理しやすくなります。引っ越しをした、結婚して姓が変わった、保管場所を変えた——これらはすべて変更登録です。
登録される内容——「小型船舶登録原簿」に何が書かれるか
登録された内容は「小型船舶登録原簿」に記録されます。登録事項は次のとおりです。
| 登録事項 | 内容 |
|---|---|
| 船舶の種類 | 「汽船」または「帆船」。主に帆走するプレジャーヨットは「帆船」、それ以外は「汽船」 |
| 船籍港 | その船を通常保管する場所の市区町村名 |
| 船舶の長さ・幅・深さ | メートル単位で小数点以下第2位まで。登録上の「長さ」はカタログ上の全長とは算定方法が異なります(正確な数値は登録事項証明書等でご確認ください) |
| 総トン数 | 船の大きさを表す主たる指標 |
| 船体識別番号(HIN) | 船体の固有の番号 |
| 推進機関の種類・型式 | 「船外機」または「船内機等」のいずれか |
| 所有者の氏名または名称・住所 | 共同所有の場合は持分も含む |
| 登録年月日 | JCIにおいて登録を完了した年月日 |
| 船舶番号 | 登録小型船舶に付与される固有の登録番号 |
「登録の長さ」は全長とは違う
意外な落とし穴が、この「長さ」です。登録上の「長さ」はカタログ上の全長とは算定方法が異なります。艇によって異なるため、正確な数値は登録事項証明書等で確認してください。
参考までに、日本小型船舶検査機構(JCI)の案内では「多くの場合は全長×0.9」と説明されています。ただし、これはあくまで目安であり、すべての船に当てはまる計算式ではありません。船型によって算定のしかたが変わるほか、測度上の長さともまた異なります。
船検の手数料は「船の長さ」で決まるため、この違いを知らないと費用の見積もりがずれることがあります。実際の数値は、必ず登録事項証明書や船舶検査証書に記載されたものをご確認ください。
船舶番号は「船のナンバープレート」
登録が完了すると、その船に固有の船舶番号が付与されます。車のナンバープレートに相当するもので、船体に表示します。海上でトラブルがあったとき、放置艇の所有者を特定するときなど、この番号が船の身分証明になります。
登録の手数料——手続きの種類と船の大きさで決まる
登録測度関係の手数料は、小型船舶登録規則第47条に規定されています。以下は主な手続きの手数料です。
新規登録(新造船・輸入艇を含む)
| 船の大きさ | 手数料 |
|---|---|
| 5トン未満・3メートル未満 | 5,500円 |
| 5トン未満・3メートル以上5メートル未満 | 7,900円 |
| 5トン未満・5メートル以上 | 10,100円 |
| 5トン以上10トン未満 | 17,300円 |
| 10トン以上15トン未満 | 20,700円 |
| 15トン以上20トン未満 | 24,600円 |
移転登録・変更登録・抹消登録
| 手続き | 手数料 |
|---|---|
| 移転登録(名義変更) | 3,350円 |
| 変更登録(書類審査のみ・住所変更など) | 3,350円 |
| 変更登録(船舶の確認を要する場合) | 4,000円 |
| 変更登録(測度あり・長さ、幅、深さ、総トン数が変更となる場合) | 4,950円〜20,100円(大きさによる) |
| 変更登録および移転登録を同時に申請(船舶の確認・測度を要しない場合) | 3,350円 |
| 抹消登録 | 3,350円 |
中古艇の売買でもっともよく使うのが移転登録で、その手数料は3,350円です。変更登録と移転登録を同時に申請する場合も、船舶の確認や測度を要しないケースであれば3,350円で済みます(引っ越し直後に中古艇を購入した場合など)。
登録事項証明書の手数料
| 種類 | 内容 | 手数料 |
|---|---|---|
| 一部事項証明書 | 所有権に関する事項は全部、その他は請求時点の最新事項を証明 | 1,500円(同一船舶で複数枚請求する場合、1通につき10円加算) |
| 全部事項証明書 | 登録原簿に記載されている全部を証明 | 1,750円(同一船舶で複数枚請求する場合、1通につき30円加算) |
| 登録事項要約書 | 複数(最大30隻)の船舶について、請求時点の最新事項を記載 | 30隻ごとに3,000円(同一船舶で複数枚請求する場合、1通につき10円加算) |
なお、上記の手数料には小型船舶登録事項通知書の郵送費が含まれますが、登録事項証明書を郵送で申請した場合の返信用郵送費は含まれていません。郵送を希望する場合は、切手を貼り宛先を明記した返信用封筒を同封する必要があります。
中古艇を買うときに必ずやるべきこと
ここからは実践編です。中古艇の売買は、個人間で行われることも珍しくありません。だからこそ、確認を怠るとトラブルが起きやすい領域でもあります。
① 登録事項証明書を取得して所有者を確認する
登録事項証明書は、小型船舶登録原簿に記載されている事項を証明するもので、誰でもその交付を請求することができます。
JCI自身も「売買などの譲渡におけるトラブルを防止するためには、登録事項証明書で所有者などの確認を行うことが重要」と案内しています。売り手が本当にその船の登録上の所有者なのか——これを自分の目で確かめるために、1,500円〜1,750円を惜しむべきではありません。
共同所有になっていないか、持分がどうなっているかも、この証明書で確認できます。「実は共有名義で、もう一人の同意が取れていなかった」という事態は、後から取り返しがつきません。
② 船舶検査証書の有効期間を確認する
登録と検査は別の制度です。名義変更ができても、船舶検査証書の有効期間が切れていれば航行できません。船舶検査証書・船舶検査手帳・船舶検査済票の3点セットがそろっているか、次回の検査時期はいつかを必ず確認しましょう。船検の詳細については、別記事の船舶検査(船検)とは?費用・周期・受け方を完全ガイドもあわせてご覧ください。
③ 船体識別番号(HIN)を現物と照合する
登録事項証明書に記載された船体識別番号と、実際の船体に刻印されている番号が一致するか——これは盗難艇をつかまされないための基本的な確認です。
④ 引き渡し前に移転登録の段取りを決めておく
誰が、いつ、どちらの手続きを行うのか。必要書類(譲渡証明書、印鑑証明書など)を売り手からいつ受け取るのか。ここを曖昧にしたまま代金だけ支払うのは避けましょう。販売店を介した取引であれば、多くの場合は店舗が代行してくれます。個人間売買の場合は、海事代理士に依頼する選択肢もあります。
忘れられがちな「変更登録」——引っ越したら手続きが必要
船を買ったあとも、登録との付き合いは続きます。次のような場合には変更登録が必要です。
- 引っ越しをして住所が変わった
- 結婚などで氏名が変わった
- 保管場所を変えて船籍港が変わった(マリーナを移った場合など)
- 改造により総トン数などが変わった
住所変更のような書類審査のみの手続きは3,350円で済みます。放置しておくと、JCIからの検査案内が届かなくなり、結果として船検の受検時期を逃してしまう——といった実害につながります。引っ越しをしたら、車の住所変更と一緒に船の変更登録も、と覚えておきましょう。
手続きの流れ
登録手続きの基本的な進め方は、船舶検査と共通しています。
- STEP 1:必要書類の準備 手続きの種類に応じた申請書、譲渡証明書、印鑑証明書、住民票などを用意します
- STEP 2:手数料の振込 申請書を提出する前に、JCIの指定口座へ振り込みます。ゆうちょ銀行またはみずほ・三井住友・りそな・三菱UFJの各指定口座が利用できます
- STEP 3:申請書の提出 振込を証明する書類を添えて、最寄りのJCI支部へ提出します
- STEP 4:船舶の確認・測度 手続きの種類によっては、船の現物確認や測度が行われます
- STEP 5:登録完了 小型船舶登録事項通知書が交付されます
登録と検査を同時に行う場合は、それぞれの手数料を合算して振り込む点にご注意ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 登録しないで乗ったらどうなりますか?
A. 小型船舶登録法では「登録を受けなければ航行の用に供してはならない」と定められています。登録を受けずに航行させることは、この規定に反する行為です。また、所有権を第三者に対抗できないという不利益も生じます。
Q. 水上バイク(ジェットスキー)も登録が必要ですか?
A. 水上バイクは小型船舶に該当するため、登録の対象となります。船体の大きさから、新規登録の手数料は5,500円〜7,900円程度が目安です。具体的な対象範囲についてはJCIの「登録対象船舶」の案内をご確認ください。
Q. 船を相続した場合はどうすればいいですか?
A. 相続により所有者が変わる場合も、移転登録の対象です。手数料は3,350円。必要書類は通常の売買とは異なり、戸籍関係の書類などが求められます。手続きが複雑になりやすいため、JCIの窓口または海事代理士に相談することをおすすめします。
Q. 船を処分したいのですが、抹消登録は必要ですか?
A. 沈没・解体により船が存在しなくなった場合、海外に売船された場合などには抹消登録を行います。手数料は3,350円です。放置したままにすると、登録上はいつまでも自分が所有者のままとなり、後々の照会や責任の所在に影響する可能性があります。
Q. 登録と船検、どちらを先にやるのですか?
A. 手続きの内容や船の状態によって順序や組み合わせが変わります。新艇購入・中古艇購入といったケースごとにJCIが手続き案内を公開していますので、ご自身のケースに当てはまる案内を確認するか、販売店・マリーナに相談するのが確実です。複数の手続きを同時に行うこともできます。
Q. 手続きを代行してもらえますか?
A. 販売店やマリーナが代行するケースが一般的です。個人間売買の場合は、海事代理士に依頼することもできます。代行手数料は依頼先によって異なるため、事前に確認しましょう。
手続きの前に——「操縦する権利」は別に必要です
ここまで読んでお気づきかもしれませんが、登録も船検も、あくまで「船」についての制度です。船が登録され、検査に合格していても、それだけで海に出られるわけではありません。その船を操縦する人には、小型船舶操縦士免許が必要です。
船・登録・検査・免許——この4つがそろって、はじめて合法的に、そして安全に海へ出ることができます。中古艇を探し始めた方のなかには、「いい艇が見つかってから免許を取ろう」と考える方もいますが、順序としては逆をおすすめします。
免許を先に取っておくメリットは大きいのです。学科で船の構造や機関の基礎を学ぶため、艇を見る目が変わります。実技で実際に操船を経験するため、「自分にはどのくらいのサイズが合うか」という感覚がつかめます。何より、いい艇に出会ったときに、すぐ動けます。
ALPHA MARINEのコースについて
ALPHA MARINEは国土交通省登録の小型船舶教習所です。国家試験免除コースのため、教習所内で修了審査まで完結します。
- 2級小型船舶操縦士免許:最短2日+1時間(試験)。海岸から5海里以内を航行でき、レジャー用のプレジャーボートのほとんどをカバーします
- 特殊小型船舶操縦士免許:最短1.5日間・55,000円(税込)。水上バイク専用の免許です
講習は2日間、修了審査(試験)は別日に1時間程度ですので、平日にお時間の取りにくい方でも予定を組みやすい日程です。修了審査が不合格だった場合も、1年以内なら追加費用なしで再審査を受けられます。なお、再試験料は無料で、1年以内なら何度でも受けられます。ただし、初回の受講日から1年を過ぎると教習自体が無効になりますのでご注意ください。
まとめ:小型船舶の登録手続き 要点整理
- 根拠法は「小型船舶の登録等に関する法律」(平成13年法律第102号)——平成14年4月1日から運用開始
- 登録がないと航行できず、所有権も第三者に対抗できない——単なる事務手続きではなく法的な意味を持つ
- 登録は4種類——新規登録・移転登録(名義変更)・変更登録・抹消登録
- 移転登録・変更登録(書類審査のみ)・抹消登録はいずれも3,350円
- 中古艇購入時は登録事項証明書で所有者を確認——1,500円〜1,750円で取得でき、トラブル防止に直結
- 引っ越し・改姓・保管場所の変更は変更登録が必要——放置すると検査案内が届かなくなる
- 登録・検査は「船」の制度、免許は「人」の制度——両方そろってはじめて海に出られる
船を持つということは、これらの制度と長く付き合っていくということでもあります。難しく聞こえるかもしれませんが、一つひとつは決して複雑ではありません。そして、その入口にあたるのが免許の取得です。大阪で船舶免許をお考えなら、ALPHA MARINEへお気軽にご相談ください。
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監修:ALPHA MARINE(国土交通省登録 小型船舶免許教習所/大阪校)
【法令確認について】本記事の小型船舶登録制度・登録手数料に関する情報は、2026年8月17日に日本小型船舶検査機構(JCI)公式サイトおよび「小型船舶の登録等に関する法律(平成13年法律第102号)」「小型船舶登録令」「小型船舶登録規則」を確認したものです。手数料・制度の内容は改正される場合があります。また、必要書類や手続きの詳細はケースによって異なります。最新かつ正確な情報は、日本小型船舶検査機構(JCI)の公式サイトおよび最寄りの支部にてご確認ください。個別の売買契約や相続に関する法律上の判断については、海事代理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
